「Amazon Dash Button」は「1Clickで今すぐ買う」ボタンのリアルバージョン

こんにちは。

気づいたら12月になってしまい、来年度の自分の仕事をどんな方向に舵を切っていくか検討中の岡安です。

この12月にSNSや各ニュースサイトをにぎわせるニュースが飛び込んできましたね。

そう「Amazon Dash Button」の日本発売のニュースです。

 

早速「1Clickで今すぐ買う」ボタンをポチっとしたので、使用感のレビューとあわせて、このような仕組みをマーケティング観点でどのように考えるべきかをまとめてみました。

 

ネット上のボタンをリアルに降臨させた「Amazon Dash Button」

すでに様々なメディアで話題になっていますので、今更詳しい説明をするのも何なのですが、2016年12月5日に「Amazon Dash Button」が発売されました。

アメリカでは先行して昨年から利用されており、いつ日本に入ってくるかという状況でしたが、この忙しい年末にぶっこんできやがりました。(時事ネタが出てきたらブログを書きたくなる個人としての感想です)

この「Amazon Dash Button」は、日用品など定期的に使用して買い置き(在庫)がなくなると困る系の商品をボタン一つで購入できるという便利アイテムです。

ネットサービスとしてのAmazonをご利用になった方は、Amazon内で「1Clickで今すぐ買う」ボタンを見かけたり、使用したことがあるかと思いますが、あのボタンが物理的に実現された機器ということですね。

これは、「日用品が便利に買える?召使が買ってくれるから別に便利でもないよ。」といった貴族とか、「男子厨房に入らず!」的な亭主関白なご主人出ない限り、便利さのイメージはすぐに伝わってくるという点で、マーケティング観点でも非常に優れた商品です。

しかも500円で購入でき、初回購入費用から機器代金が差っ引かれるということで、実質無料で利用できるというおまけつき。

 

早速ボタンを使って注文してみた

速攻でボタンを申込み、「〔炭酸水〕 サントリー 南アルプスの天然水 スパークリング 500ml×24本」を購入してみました。

 

この記事では詳しくは書きませんが、ボタンが届いてからの手順は、
①スマホなどのAmazonアプリを起動
②Bluetooth接続で、「Amazon Dash Button」とアプリを接続(Bluetooth接続が必要なのは設定のときのみ)
③商品やお届け先、利用するWifiなどを設定
で、以後はボタンを押すだけで、注文が完了です。

一度設定してしまえば商品やお届け先を変更しない限り、ボタン一つで購入が完了します。

ボタンを押してから注文が完了するまでは、約10秒程度。

注文が完了すると、Amazonアプリに注文完了通知が入ります。

翌日オフィスに、炭酸水が24本届きました。

 

購入者側のメリットは?

では、この「Amazon Dash Button」の購入者側のメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか。

これはイメージ通り、買い置きがなくなりそうと思ったときにすぐに発注できるという点です。

普段の生活で、

「あ、洗剤がそろそろなくなりそうだから、後でネットで注文するか、仕事帰りにドラッグストアによらなくっちゃ」と朝に思って、出勤して、仕事を終えて家に帰ってきて、洗濯をしようと思って洗剤の残りを見て、「あ、洗剤買うの忘れてた。後で買っておかないと」以下ループ。。。

といったことがよく起こっているのではないかと思います。

現代の忙しい日常を送っている人々は、日用品を買うという細かいタスクを覚え続けるということがなかなかできません。

しかし、「Amazon Dash Button」があれば「あ、洗剤がそろそろなくなりそうだ。ポチっとな!」で注文が完了するのです。

つまり、
・忘れずに買うべきものを覚えておき、実際に購入して持ち帰る
or
・その場でスマホを取り出してブラウザを立ち上げ、商品を検索し、購入ボタンをクリックする
という手間を省けるのが具体的なメリットといえます。

これは便利であることは間違いありません。

 

購入者側のデメリットは?

では、この「Amazon Dash Button」にはメリットだけではなく、デメリットもあるのでしょうか?

明確なデメリットとは言いづらい部分もありますが、実際に購入してみると思ったよりも使いづらいなと思う部分も多いのが実際のところです。

まず大きいのが、荷物の受け取りが発生するという点です。

このサービスはどちらかというと忙しい人向けの便利なサービスといえそうです。

家に専業主婦や主夫の方がいて、日用品を常に補充できる状況にある人にはそれほど必要性はありません。

「洗剤切れたから買っておいてね」と依頼しておけば済んでしまうからです。

そうでない忙しい人にとっては、荷物の受け取りというのは意外と面倒でストレスのかかるものです。

Amazonで注文したものは宅配サービスを経て、自宅や職場に届きます。

受け取れる人がいればよいのですが、忙しい人はなかなか荷物を受け取れるタイミングがありません。

マンションなどで宅配ボックスがあればよいのですが、そうでない場合、わざわざ再配達を依頼して、その時間家にいなければならないなんてことになりかねません。

これでは、軽いものであれば近所で買った方が早いよね、という結論になってしまいます。

 

もう一つの使いづらいと思われる点は、商品を自由に選べない点です。

同一ブランドの商品からはスマホの設定でサイズや分量を変更するといったことはできますが、さすがにメーカーをまたいだボタンは現時点ではないようです。

ですので、ちょっと違うものにしようかなというときには、ボタンが必要なくなってしまいます。

 

また、同様の顧客のニーズを解決する手段として、Amazonでは定期便サービスを行っています。

定期便は、その名の通り、定期的に特定の商品を自動で決済して送ってくれるサービスです。

オムツなどの購入で我が家でも使っていますが、この定期便のメリットはわざわざ注文しなくてもよい、という点と割引がある2点です。

定期便サービスは、日用品が必ずしも一定期間でなくなるものではないという点で若干使いづらいのですが(オムツがなくなるタイミングで届くまでにタイムラグが発生したりします)、この割引というのが顧客視点では魅力のサービスです。

それに対して、「Amazon Dash Button」では、商品の割引は初回利用時以外ありません。(私の購入した商品はということですので、すでに割引もあるかもしれませんし、今後割引される可能性もありますが)

つまりまとめて考えてみると、「Amazon Dash Button」を利用するのに最も適した状況というのは、

・仕事などが忙しくて日用品を購入するのがなかなか難しい人で
・購入商品が基本的に決まっていて
・荷物の受け取りが容易で
・多少の割引などは気にしない

場合であるということですね。

割とピンポイントのニーズをついている感じはあります。

慣れの部分もあると思いますが、万人が常に喜んで使えるサービスではないといってもよいかもしれません。

 

Amazonやメーカー側のメリットは?

一方Amazonやメーカー側のメリットはどのようなものがあるのでしょうか?

これは明らかに顧客の囲い込みです。

Amazonからすれば、今までスーパーやドラッグストア、他のネットショップで購入していたユーザを奪い、常にAmazonで購入してもらえるようになりますので、こんなうれしいことはありませんね。

しかも定期便のように割引サービスなしで。

メーカー側としても同じように、すでに使っている顧客が他の商品に浮気するのを防止する役割を果たします。

日用品にこだわりを持っている顧客は別として、結構な割合でスーパーで見かけた安いものに気軽に乗り換える層もいることを考えると、顧客を囲い込み続ける方法としてや非常によい施策といえます。

また、便利に購入できるから他の商品から乗り換えてみるといった新規獲得の施策になる可能性もあります。

実際に、どの程度顧客の囲い込みになるか、新規の獲得に寄与するのかはわからない部分が多いですが、現時点でのボタンのラインナップを見ると、競合の企業が同じような商品を提供しているのがわかります。

メーカー側としては、攻めの感覚もあると思いますが、競合を意識した守りの施策として提供に乗り出したという側面もあるかもしれません。

 

他にも、個人の購買行動データを押さえることができるというメリットもありそうです。

Amazon側がメーカー側に匿名化してデータを提供するのかなどは不明ですが、日用品をどの程度の頻度で購入するのか、どの程度まとめ買いするのか、同一ブランド内での乗り換えのタイミング、他のブランドへの乗り換え(=自社商品の購入が途絶えた場合)などがわかるのであれば、商品企画やマーケティングに活かせるデータとなりえるのではないかと思います。

この辺りは各種ポイントカード事業を行っている企業のサービスと一部競合すると言えそうです。

 

しわ寄せを食う宅配便サービス業者

ここまで顧客とAmazon、メーカー側の話をしてきましたが、関連する事業者としての宅配便サービス業者について、少しだけ触れておきます。

「Amazon Dash Button」の提供で、宅配サービス業者は、取り扱い荷物の増加に頭を悩ませることになりそうです。

ただでさえネット通販の拡大で、かなりの人手不足状態になっているところに、明らかに取り扱い荷物が増加すること間違いなしのサービスが始まったのですから、人手不足に拍車がかかりそうです。

「Amazon Dash Button」の発売と同時期にAmazonのセール「サイバーマンデー」もあった影響で、玄関先で話したお兄さんは、「自分が3人いても手が回らないような状態です(T-T)」と泣きが入っていました。

再配達も増えるであろうサービスなので、ご愁傷様としか言えない状況ですが、ここまで便利になっていく必要があるのかなという正月1日からオープンして働いている人の姿を見た時のような微妙な気分にはなってしまいます。。

できればAmazonさんには、その辺りを配慮したサービスへの改善をして欲しいなと思います。

 

Amazonにおける今後の展開~取り扱いブランド拡充から関連サービスへ~

では、最後に今後の展開についてAmazonと競合の視点から少し考えていきましょう。

「Amazon Dash Button」の今後の展開としては、まずは購入できる商品の拡大が実施されるでしょう。

実際の売れ行きなどを見てからの投入かもしれませんが、先行してリリースされたアメリカも使える商品がどんどん増えていったようですので、日本でも同じ動きが起こることは間違いないところです。

 

それ以外の展開としては、すでに発表済みである「Amazon Dash Replenishment(アマゾン ダッシュ リプレニッシュメント)」に対応した商品の発売が挙げられます。

「Amazon Dash Replenishment」は「Amazon Dash Button」のAmazonが機器メーカーに提供するサービスで、プリンターなどに組み込むことによって、人間の思考や手を介さずに残り少なくなった消耗品を自動でAmazonで発注できるようにする仕組みです。

こちらは、すでにアイリスオーヤマ、エレコム、シャープ、船井電機、三菱レイヨン・クリンスイなどが開発を進めているようですので、近い将来商品が続々と出てくるでしょう。

こちらも利用シーンがある程度限られてきますが、メーカーとしても消耗品をAmazon経由とはいえ、自社から自動で購入してくれるというのは、顧客サービスの向上・顧客の囲い込みの視点で外せないサービスとなりそうです。

このようなサービスを自社だけで展開しようとするとかなりの投資が必要となりますが、Amazonのインフラを利用すれば、中小メーカーでも少ない投資で、自動発注サービスを組み込むことができます。

 

また、日本では未発売の「Amazon Echo」の発売時期も気になることろです。

「Amazon Echo」はいわゆるAIアシスタントやバーチャルアシスタントを内蔵(実際にはクラウド上?)し、音声でAmazonの各種サービスの利用(商品の注文や音楽の再生など)を行える、音声認識装置です。

「Amazon Dash Button」の使いにくい点をカバーしうるサービスですので、例えば、バーチャルアシスタントと話しながら自由に商品を購入できたり、受け取りタイミングなどはスケジュールに合わせて勝手に調整してくれるなんて感じになるかもしれません。

 

競合における今後の展開

Amazon以外の競合ではどうでしょうか?

おそらく単純な話としては、楽天などが類似のサービスを始めることが考えられます。

特許などがどうなっているか気になるところですが、ざっと見たところでは、Amazonが持っている「ワンクリック特許」要件にはかぶらず、ダッシュボタンに関する特許もないという話もありますので、形をやや変えて類似サービスがお目見えするのではないでしょうか。

ただし、物理的なデバイスも必要なことから、そこまでせずともスマホのアプリで十分と考える企業も多いかもしれません。

大手メーカー系であれば、Amazonのインフラを利用しない形で、製品に自動発注システムを組み込むという方向性も出てくると思います。

あるいは、決済サービスを提供している企業が様々なプラットフォームで利用できる同様のサービスを始めるということも考えられそうです。

 

まとめ

「Amazon Dash Button」の使い勝手から、今後の展開までまたかなり長めの記事となってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

「Amazon Dash Button」に限らず、ここ最近のトレンドとしてVRやARなど様々な形で現実が侵食され、ネットとリアルの融合、バーチャルとリアルの融合が進んでいくことになりそうです。

自社のサービスがネットよりなのか、リアルよりなのかで抱く感想が異なるかもしれませんが、顧客視点を持ちつつ、このようなトレンドにどのように乗っていくべきかということは、考えておいて損はないと思います。

ではでは。

この記事を書いた人

岡安裕一