ヤッホーブルーイングの井手社長が傾奇者だった件【講演会参加レポート】

こんにちは。

皆さんは現役バリバリの経営者の講演会やセミナーに参加したことはありますか?

勢いのある企業の現役経営者の講演はためにもなるし、モチベーションアップにもつながりますので、機会があればぜひ足を運んでみてください。

私も先日、「参加してよかった!なんでみんなここにいないの?」と思える講演会に参加してきましたので、皆さんにほんの少しのエッセンスをおすそ分け。

例によって記事が長めになってしまったので、お時間のあるときにご覧ください。

先日参加した講演会は、こちらです↓

東商板橋若手経営塾 特別講演
「よなよなエールの成長戦略~8年連続赤字から11年連続増収増益までの軌跡~」
(株)ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手 直行 氏

開催日時:2016年11月07日(月)16:30~18:00
内容:
①自己紹介&会社紹介
②イノベーション
③チーム力
④まとめ

http://event.tokyo-cci.or.jp/event_detail-72551.html

東京商工会議所 板橋支部主催の若手経営者・後継者の方向けの経営塾。
全11コマで経営の基本を学ぶ講座で、私は「マーケティング」「営業管理・支援」を担当しています。
板橋支部のご尽力により素晴らしい講演を聞くことができました。ありがとうございます。

yonayona

期待値は否が応でも盛り上がる

経営塾の講師をやらせていただいて、これはぜひ参加せねばと一人で盛り上がっていた特別講演。

なんだがちょっと変わった経営者が、とんがった会社を経営しているらしいというのは知っていました。

その名も「ヤッホーブルーイング」。

なにか名前だけでも楽しそうですよね。

さらに扱っている商品がエールビール「よなよなエール」。

一度聴いたら忘れられない、ビールらしからぬやわらかい語感とリズムを持った商品名。

他にも「インドの青鬼」「水曜日のネコ」「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY」などなど、およそビールの商品名とは思えない名前のオンパレード。

こんな会社を経営している人の話が面白くないわけがない!

ネットにはいろいろと情報があったり、書籍も出版されているようでしたが、あまり事前に情報を入れすぎない方が楽しめるだろうということで、最低限の情報収集で講演に参加してきました。

ちなみに、書籍はこちらです。
私の偏見に満ちたレポートではなく、直接井手社長の言葉でヤッホーブルーイングについて知りたい方は、こちらからご購入ください。

 

では、本題に入っていきます。

 

ちょっと変わったどころか傾奇者だった井手社長

事前の「ちょっと変わった経営者」というイメージは講演の中で打ち砕かれました。

完全に「花の慶次」の主人公前田慶次郎ばりの傾奇者(かぶきもの)です。(乱暴狼藉を働くような傾奇者ではありません)

非常にわかりづらい例えで申し訳ありませんが、とにかくそんな感じなのです。

なにせご自身を日本で3本の指に入る仮装社長だと言い切っています。

「仮装と経営関係なくない?」と思ったあなた。あなたの感覚は正しいです。安心してください。

でもこの一見関係なさそうな仮装もヤッホーブルーイングの「知的な変わり者」というコンセプトを体現した立派な経営手法なのです。たぶん。(単なる仮装好きで、理由は後付けという可能性も否定はできません)

勝手に仮装の画像を転載するのもあれなので、詳しくはこちらをご覧ください。

ヤッホーブルーイング 井手社長」での画像検索結果

ぱっと見は、さわやかな感じの気さくな若手社長といった写真がほとんどなのですが、ちょいちょいおかしな画像が紛れているのがわかりますでしょうか。

宇宙人?歌舞伎役者?ブラックデビル?

しかもこの歌舞伎役者の格好のときには、世界と日本を代表するIT企業の代表クラスが集まる中、安倍首相に仮装のまま突撃し、SPに逮捕されそうになり、さらに「今思えば逮捕された方がおいしかったと思っている」なんてコメントを残すほどの傾奇者っぷり。

ちなみに、社長と一緒に宇宙人の仮装をしている方は、私の妻の元同僚でお会いしたこともあるのですが、ゆっくりお話出来なかったので、次にお会いする機会があれば、色々とお話を伺いたいと思います。

ヤッホーブルーイングが今の形になったのには理由がある

さて、少しまじめな話にも触れておきますと、ヤッホーブルーイングは井手社長が直接創業した企業ではありません。

リゾートの再生請負人として知名度の高い星野リゾートの星野佳路氏が1996年に創業した企業です。

星野氏がアメリカでクラフトビールに出会い衝撃を受け、こんな味のビールを日本に紹介したい!日本でも必ずビジネスになる!という思いから、設立されました。

創業直後に幸か不幸か地ビールブームに乗っかり、順調なスタートを切るもののブームに巻き込まれる形でブームの終焉とともに業績が悪化。

そしてここから長い冬が始まるのです。

この冬眠期には、テレビCMやキャッシュバックキャンペーン、年末年始のスキー場での試飲販売など、いろいろと思いつく手を打っていきますが、なかなか成果は上がりません。

数字の上では5年程度ということになるのでしょうが、言葉では言い表せない大変な時期だったと思います。

いろいろな企業の支援を行っていると肌で感じることも多いのですが、上手くいっていない企業ってなんとも言えない雰囲気の悪さがあるんですよね。

オフィスに入った瞬間に電気はちゃんとついているんだけど、なんとなく暗い。

窓を開けていても、なんとなく風通しが悪い。

でも、支援を続けているとそんな雰囲気の中で1人か2人は前を向いている人がいて、声を上げたり、何らかの行動を始めたりすることもあるんです。

当時営業リーダーだった井手社長もそんなあきらめの悪い社員だったのでしょう。

そんな空気の中、結果が出ずにもがき苦しみつつ、井手社長は事業戦略やマーケティング、会計などの勉強を始めます。

大手のモノマネではなく、基本を押さえて自社にあった活動をするために。

 

そして、基本を押さえて大手のマネではない活動を行うことで、創業から8年赤字だった企業が、そこから11年連続の増収増益に成長し始めます。(書籍を読んでみると、楽天でのネット販売が大きな転機となったようです)

その成長のキーワードの一つが「イノベーション」です。

 

イノベーションとは技術革新ではなくあらゆることの変革である

講演の中で、いろいろなことを学んで井手社長がたどり着いた戦略論を以下の簡潔な言葉で表していました。

戦略とは、

「競争上必要なトレードオフを伴う一連の活動を選び、一つの戦略的目標に向かって活動間のフィット感をうみだすこと」

である。

おそらく戦略に対する考えは今後も進化していくのだと思いますが、現時点での到達点として、ご自身の言葉としてきちんと語っている印象を持ちました。

私は中小企業診断士といいながらも経営レベルの戦略系のお仕事よりもどちらかというと戦術レベルやオペレーションレベルでの業務が日々のお仕事の中心です。

そのつたない経営戦略論の理解度の範囲では、競争戦略の中の「差別化戦略」や「バリューチェーン」を意識した言葉となっているのかなと思いますが、講演の中では、
・さまざまな活動が単発ではなく全体がつながって相乗効果を出すこと
・差別化といっても10人のうち3,4人が選ぶ道ではなく、1人しか選ばない道を選び続けることが必要だ
といった表現をされていました。

この辺りはあらゆる資源の足りない中小企業の経営者としては学ぶべきポイントで、若手経営者向けの講演ということで、特に伝えたい部分だったのかもしれません。

講演の中でこのあたりの話をまとめるキーワードとして「イノベーション」という言葉を使われていましたが、イノベーションを技術革新という言葉として理解していると、少しイメージが伝わりづらいかもしれません。

本来イノベーションとは、技術だけでなく、新たな価値創造や組織や人などありとあらゆるものの変革を意味する言葉です。

ですので、ここで井手社長が伝えたかったのは、組織やビジネスそのものの変革の話だったのかもしれません。

ヤッホーブルーイングは、自社のビジネスの事業領域を

「ビールを中心としたエンターテイメント」

として、位置付けているようです。

つまり、おいしいビールを届けるだけでなく、よなよなエールを飲んでくれるファンの人たちに様々な形で娯楽を提供するビジネスをしている、という風に自分たちの仕事を位置付けている訳です。

だから社長が仮装をして様々なところに出没して話題にもなるし、直接利益にはつながらないファンイベントも開催し、取引先も巻き込んだお金をかけないSNSでのプロモーションを展開しているのですね。

よく言われながら実践が難しい、「売上や利益は後からついてくる」といった考えを実施しているといってもよいでしょう。

赤字が続いていたころとは、企業概要レベルの表現では同じビールの製造・販売だとしても、やっていることや社員の意識は、異なる業界の人ほども異なっているはずで、そこに至るまでには多くのイノベーションを起こし続けてきたのだと思います。

そして、そういったことを実践していくためには、あらゆることに革新をもたらすイノベーターを生み出すような企業文化が必要で、ヤッホーブルーイングでは、そういった企業文化を作っていくことにもかなりの力を割いています。

その企業文化を作るためのキーワードが「チーム力(チームビルディング)」です。

 

チーム(組織)を変えるにはまず自分から

講演の中では、少し時系列的には話が戻って、今から7年前(2008~2009年ごろ)のころの井手社長の悩みについて話が展開します。

このころの井手社長の悩みは周りの社員の仕事ぶりについてです。

自ら動かない、他人任せ、消極的。。。

いろいろな中小企業の経営者からよく聞く愚痴に近いお話を井手社長も感じていたようです。

そして、また井手社長はなんとかそんな状況を打開しようと、外に答えを求めます。

具体的には、TBP(チームビルディングプログラム)という外部の研修を受講したのです。(講演内では明言されていませんでしたが、調べてみると楽天大学内の研修のようです)

その研修で、周りを変えるには、トップ(自分)が変わらなければならない、相互理解と目標の共有と合意が必要なんだという気付きを得ます。

これも言葉だけとれば、なんてことないものに聞こえますが、実際に体験して、衝撃を受けるというレベルで腹落ちした井手社長は、またどんどん行動を開始します。

この行動力が井手社長の強みの一つなんでしょうね。

この外部で受けた研修の内容をなんと自分が講師になって、社内TBPとして展開し始めます。

 

こんな話も中小企業では結構よくある話です。

ある時社長がふらっと参加した研修やコンサルタントの話を真に受けて、社内で何かを始める。

回りの社員はまたなんか社長が始めたよと冷めた目で見る。

そして思い付きで行動していた社長が飽きて、あるいは社員の冷たい目に耐えられず活動をやめてしまい、社員の酒の肴になって忘れさられる。

皆さんもそれに近いことは経験してことがあるかもしれません。

でも井手社長が普通の中小企業の社長が違ったのは「急がば回れ」の精神で、一気にみんなを変えるのではなく、変われる人・共感してくれる人から地道に、あきらめずに活動し続けたことです。

また単発の研修としてではなく、チームを強くするためのインフラとしてのコミュニケーションを活性化させる仕組みも作っていきます。

そのような地道な活動や研修を行うことで、イノベーションを起こせるような組織を作り、11期連続増収増益という結果を得るまでになっていきます。

 

行動力以外の社長の強みはハートの強さ?

ここまでの話を聞いて井手社長に抱いたのは、「ハート強えーな」という感想です。

仮装にしても、企業文化の醸成にしても、最初からみんなが受け入れてくれた訳もなく、最初は相当な心理的抵抗があったであろうことは容易に想像がつきます。

私自身もいろんなことをやるときの判断基準として、「別に命は取られないよね」というものをベースに持っているのですが、私の心臓が鉄だとしたら、井手社長の心臓はダイヤモンドでできているレベルです。

実際、新たな企業文化を作っていく過程では、少なくない社員が会社を去っていったそうです。

これは、2,30人規模の会社がミッションや事業の方向性を明確に打ち出して拡大する過程でよく起こる現象でもありますが、仕方ないと思いながらも、いろいろと思うところがあったはずです。

実際には、会社の方向性と合わない人が残る方がお互い不幸せなのですが、特に人間的にウマの合う人が会社を去るようなときには、寂しく思うときも少なくなかったでしょう。

また、このチームビルディングを本格的に実施しているときは、売上も停滞するというような数字上の影響まで出ていたようです。

そんな状況でも自分がこうすべきと思ったことを実行できすハートの強さは誰でも持てるものではないかもしれません。

 

まとめ

講演のまとめとして、誰も歩まない道を歩み、その歩みによって熱狂的なファンを生み、知的な変わり者を目指すチームとしてイノベーションを起こし続ける、そして、最終的には世界平和(!)が目指しているものという締めくくりとなりました。

世界平和にまで話が発展するとはおもいませんでしたが、密度の濃い1時間半を楽しく過ごすことができ、また、今後の私自身のビジネスや中小企業を支援する中でヒントとなるものをたくさんいただくことができました。

井手社長、ありがとうございました。

 

ではでは。

 

p.s.

今回の記事では、講演の半分も内容をお伝えできていませんし、講演よりもさらに詳しい内容(井手さんが社長になるときの星野さんとのやり取りとか、楽天でのネット販売でブレイクする過程とか)が書籍に入っていたり、ネットの様々な媒体でもいろいろなお話しが記事になっていますので、調べてみると面白いと思います。

また、イケてるなと思った企業に関しては、商品やサービスを実際使ってみると気づきもあります。

実際によなよなエールを直営ECショップから注文して、SNSに投稿したら、すかさず公式Twitterアカウントからいいねをされました。

とんがったプロモーションだけでなく、地道な活動もしっかりされているんですよね、やっぱり。

 

 

この記事を書いた人

岡安裕一